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​仏典の蓮華Ⅰ

​文章の無断転載はかたくお断り致します。
仏教は、時代ごとに・国ごとに・宗派ごとに教義解釈に違いが有り非常に複雑になっています。
釈迦が生存中の時代には、蓮には女性的な意味が有りました。釈迦は弟子たちにこう云ったそうです。「蓮の花を見て心を動かされない様に」この時代に蓮が悟りの花であったなら、蓮を見て心が揺れ動くなんて矛盾するでしょう。
蓮には女人のイメージが有り、優美な蓮の花を観て、美女の誘惑の如く心を乱さない様にと注意したのでしょう。
 
仏典も時代・国・宗派ごとに違いがあり、複雑な事情が有りますが
ここでは日本でも有名になった〔漢訳の例〕を挙げてみます。
 
 
《花の状態で呼び分け》
【開敷蓮華 かいしきれんげ/Amboja/Kamala/Rajiva】
蓮の花が満開に開いた状態を開敷蓮華と呼びます。蕾や半開きの状態は「未開敷」と呼んで区別します。翻訳家によりアームボージャ、ラージーヴァも開敷蓮華とします。但しラージーヴァは縞模様の有る魚・青い蓮華の意味も含みます。
蓮の蕾はクマラ(Kumara)と呼び、クマーラには王子・少年・童子の意味も有り、女性形クマーリーとなれば王女・処女・童女の意味を持ちます。
 
【迦摩羅・迦摩羅華/Kamala】
梵語Kamalaの音写で、睡蓮または蓮。女性形カマラーは、淫奔の意味にも訳されました。
『大日経疏演奥鈔』には蓮が蕾のときは「屈摩羅 クマラ」と呼び、開いた花の状態を「迦摩羅 カマラ」と呼んで区別した事が記述されています。
《蓮の種類の大別》
 
【花弁数による分類】
仏教では蓮の花弁数でも分類します。 
①菩薩華…花弁が千枚以上の蓮。②天華…花弁が数百枚の蓮。③人華…花弁10枚以上の蓮。
人間よりも天人、天人よりも菩薩の方が霊格が高いので、菩薩界・天界(八重咲き)の方が人間界(一重咲き)に勝る事になります。
しかし、一重咲きの蓮の方が清楚な感じがして天界菩薩界にも似合うと思います。どっちでもいいんですけどね。
【五種蓮華 ごしゅれんげ/Panca-Padma】
睡蓮を含む五種類の蓮華。仏典で呼ぶ「蓮華」は、睡蓮と蓮の両方を含めます。
蓮=ネルンボ、睡蓮=ウォーター・リリーという厳密な区別は無かった様です。
《紅・白・青・青・黄》の五色で、紅と白が蓮、他は睡蓮。二種類の青蓮華は熱帯性睡蓮。
五種蓮華の花色リストは他にも有り、《白・青・紫・紅・黄》《白・青・紅・黄・黒》等。
詳細は『仏典の蓮華Ⅱ』をご覧ください。
 
【四華・四花 しけ、/Catur-Padma】
【四種蓮華】【四種の蓮】
①蓮の花色で紅・白・青・黄の4種類にまとめたもの。
パドマ・プンダリーカ・ウトパラ・クムダで、詳細は「仏典の蓮Ⅱ」を参照。
『浄土三部経』等で“赤色は赤光、白色は白光…”と語られる四種類の蓮はこれです。
 
②法華六瑞相のうちの第三として天界から降るという四種類の蓮。
紅蓮華(曼殊沙華)・大紅蓮華(摩訶曼殊沙華)・白蓮華(曼陀羅華)・
大白蓮華(摩訶曼陀羅華)。
「摩訶」は梵語のマハー(Maha)の音写。「大きい・優れた」を意味します。
曼殊沙華には複数の意味があり、天上界の架空の花とする説・赤い睡蓮や蓮とする説に分かれます。蓮・睡蓮とまったく別の植物=ヒガンバナの別名として有名になりました。
曼陀羅華も空想上の花で、仏典では白蓮華の別称に使われました。
古い資料ではサンゴジュ(Erth-rina Indika)としていますが、現代ではナス科の朝鮮朝顔(Datura metel)の別名とするのが定着しています。
③葬儀で使う造花の四花は(しか)と呼んでしけと区別します。こっちは釈迦が亡くなったとき沙羅双樹が白くなった故事に由来し、「紙花」とも書きます。
【七宝蓮華 しっぽうれんげ】
七宝蓮華の記載は仏典に多数有ります。
①如来・菩薩・浄土・天界等を華麗に演出するために創作された架空の蓮。名前だけなら数種類の宝玉でできたイメージが有ります。
『大方便佛報恩経・第一巻』では七宝蓮華を銀色の茎、黄金の葉と表現。仏前に飾る金色の造花の蓮にそっくりです。大地より化生したとか聖地の池に在るとか特別な表現です。
②中国の研究者によれば
“七宝蓮華は紅と白が蓮、他はすべて睡蓮。” 出典/『絢爛的荷文化』中国林業出版社 P.83
となります。
【八色蓮華】
『妙法蓮華経 馬明菩薩品・第三十巻』に記述された蓮の種類リストで全8色有ります。
蓮の花色は《青・黄・赤・白・紅・紫・縹・緑》。現実に無い花色が有り、八という数詞に合わせて創られた品種リストだと思います。赤と紅を分けているのはなぜ?。
赤は、おそらく桃色か退色した薄紅色の蓮で、紅とあるのは退色してない鮮やかな紅蓮ではないでしょうか?。縹(はなだ)色はダークブルー~暗い水色を指す色で蓮には無い色です。
睡蓮が混ざっているにせよ、かなりゴリ押しに思えます。本当にそんな花色が出せたらロマンが有るんですけれど。
【八種蓮華】
先に挙げた「八色蓮華」と同類ですが、一部違いが有ります。『賢愚経』では八種の蓮華を
《青・黄・赤・白・紅・緑・紫・雑》としています。雑蓮華とは何でしょう。雑蓮華については「仏典の蓮華Ⅱ」を御覧ください。
【宝蓮 ほうれん】
如来や菩薩の座す「蓮華座」の別称。
【蓮根/Skt.<Saluka, Eng.<lotus root】
漢字では蓮の根と書きますが、根ではなく地下茎です。梵語でSaluka(シャールーカ)と呼ばれたそうです。生で擂り下ろしたものを梨汁と混ぜたものが、薬にされていたそうです。
【世界蓮≒宇宙蓮/Loka-Padma】
全宇宙を象徴した教義上の蓮で、大日如来が座すとされています。
花弁ごとに各々の世界があり、各々の世界の中に、更に沢山の世界があると云う、壮大な宇宙観です。
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